中世のヨーロッパには、砂を用いて銅食器やフローリングをきれいに磨く職業がありました。その職人のことを「Sandmann/サンドマン」といいました。
毎晩親の言う事を聞かずになかなか床に就かない子どもたち、というのは今も昔も同じこと。これに業を煮やした大人たちが寝かし付けるために「Sandmann/サンドマン」という職からヒントをもらって聞かせたお話は、世にも恐ろしい、目をくり抜いたり目に砂を入れこむといったもの。「おとなしく寝ない子は、サンドマンがくるんだぞー」とばかりに脅して寝かしつけていたようです。
でも、今のドイツの子供たちはサンドマンのことを怖いだなんて思いません。可愛らしいパペットアニメのサンドマンは毎日楽しいお話を持って来て、最後に眠くなる魔法の砂をまくやさしい妖精だからです。
このルーツは、アンデルセン作の「眠りの精オーレ・ルゲイエ」。デンマークのサンドマンは砂をまかずにほんの数滴ミルクをまぶたの上にたらします。残酷なおとぎ話だった砂男を、眠りを誘う妖精として描きました。
そして第二次世界大戦後の東ドイツでは、女性も積極的に外で働かなくてはならなかった背景も手伝って、親に代わってテレビがその役割を担い、パペットアニメのサンドマンが登場しました。1959年の出来事です。
1961年ベルリンの壁構築後、西ドイツも独自のサンドマンを生み出しました。東ドイツとは違って、妖精というよりも気のやさしいおじさんのような風貌のサンドマンです。しかし1989年の壁崩壊後、サンドマンも東西統一の煽りを受けて、2つもいらないどちらか1つにしようということになりました。資本の流れが押し寄せる中、東ドイツ生まれの、映画「グッバイ、レーニン!」にも登場したものが生き残りました。
現在もサンドマンは地域によって若干のズレがあるもののドイツ国内で毎日放送されています。夕方に流れるスタイルは放送開始当時のまま。ほんの数分間の放映なのに絶大な人気を誇り、アナログ感を残しつつデジタル化されながら、今なお新作を作り続けています。
戦後のパペットのサンドマンで育った世代が多くなるドイツにおいて、古来のサンドマンの姿を知ったらきっと驚くに違いありません。口承や絵本で伝えられてきたお話がメディアへと場所を移して生き続けている現象はとても珍しく、素朴でありながらレパートリーに富んだ乗り物や旅行などで毎日を楽しませてくれる「サンドマン」は、現在進行形の特異なキャラクターとも言えるでしょう。
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